オウムの世界にも文化があった!

※本記事で紹介している論文はオープンアクセス、かつ、ジャーナルが二次利用可としているものです。掲載雑誌Scienceは非営利目的の場合のみ、二次利用を可としています。

 

紹介論文:

「Klump, B. C., Martin, J. M., Wild, S., Hörsch, J. K., Major, R. E., & Aplin, L. M. (2021). Innovation and geographic spread of a complex foraging culture in an urban parrot. Science, 373, 456-460.」

 

他者の行動をまねる。それが世代間で伝承されていくことで、地域の文化になる。こういった文化の生成、伝承が、いままさにオーストラリアで起こっていることを示した論文です。

 

オーストラリアには、海外ではペットとしても人気のオウムの一種キバタンが野生で生息しています。キバタンは近年ゴミ箱を荒らすことで、害鳥として扱われるようになっています。それでは、この蓋を開ける行動が、どのように出現し、広まっていったのかを実証したものです。

 

2018年と2019年の2年で続けて、オンライン調査を行い、特定の地域の住民に、キバタンがゴミ箱の蓋を開けるのを見たことがあるか、そして、あるなら、いつ、どこで見たかを答えてもらいました。

 

 

蓋開け行動が見られた地域のマップ

 

薄いクリーム色が2件報告のあった地域を意味し、濃い茶色に近づくほど、報告された件数は増えていきます。pre 2018(2018年前)は薄クリーム色が3箇所だけです。2018年は、徐々に色が濃くなっていき、さらに周りに薄い色がついて行っているのがわかります。2019年になると、色のついている範囲は更に広がっています。さらに、2019年最初から、北部で色がついている地域が出現し、その地域も徐々に広がっていきました。これはこの地域、それまでになかった蓋をあける行動が出現、つまり、イノベーションがおきたことを意味します。

 

オンライン調査から特定された3つのホットスポット(Sutherland、Helensburgh、Stanwell Park)で、キバタンにマークをつけて個体識別をしました。撮影した蓋開け行動の動画分析から、探索(PRY)、開ける(OPEN)、HOLD(保持する)、WALK(歩く)、開ける(FLIP)の5つのパーツからなり、それぞれを行ったり着たりしながら、最後蓋を開けるところまで行き着くことが分かりました。この言ったり来たりの順序に地域差があり、そして、それぞれの段階にも、地域によって微妙な違いがあることが分かりました。たとえば、HOLDの段階で、ある地域では、くちばしを使っていますが、別の地域では、脚を使っています。

個体識別のためにマークを付けられたキバタン

 

蓋開け行動の順序

キバタンの蓋を開ける瞬間

 

とっさの思いつきで、誰かがひらめいた新たなアイデアを拡散していく。そして、これは遺伝情報に組み込まれた行動ではない。こういった点で、ヒトと動物には共通性があるのかもしれません。