本当はおかしい「A→B」ならば「B→A」

※本記事で紹介している論文はオープンアクセス、かつ、ジャーナルが二次利用可としているものです。

 

紹介論文:

「Imai, M., Murai, C., Miyazaki, M., Okada, H., & Tomonaga, M. (2021). The contingency symmetry bias (affirming the consequent fallacy) as a prerequisite for word learning: A comparative study of pre-linguistic human infants and chimpanzees. Cognition, 214, 104755.」

 

「A→B」ならば「B→A」と推論することは、対称的推論と呼ばれます。生後8ヶ月の乳児とチンパンジーを対象に、この対称的推論を有しているかを以下の実験を行うことで検討しました。

 

「イヌのぬいぐるみが呈示されたあとに、小さな丸がジグザグ動く」「ヘビのぬいぐるみが呈示されたあとに、小さな丸がカーブを描いて動く」これらの2つの映像を複数回呈示します。そして、参加児にこの随伴性を十分に学習させます。これが、馴化試行となります。

刺激映像の流れ

その後、今度は、順序を逆転させて、小さな丸が動いた後に、ぬいぐるみを呈示します。この際、先程と同じ組み合わせのものを一致条件、組み合わせがことなるものを不一致条件とします。もし参加児が、馴化試行で学習した組み合わせを十分に学習し、さらに、時間的な順序が入れ替わってもその随伴性が適用されるならば、不一致条件では意外に受け取るため、注視時間がのびるはずです。

 

その結果、秒数としてはわずかな差ですが、統計的に有意に不一致条件のほうが注視時間は長くなりました。

 

すなわち、8ヶ月の乳児は、「イヌ→ジグザグ」ならば「ジグザグ→イヌ」という対称的な推論を行うことが示唆されました。

 

次に、現生種の中でヒトと最も近縁なチンパンジーでもこの推

論が見られるかを検討しました。結果、一致条件と不一致条件の間に注視時間の差は見られませんでした。しかし、この結果だけだと、チンパンジーが対称律を有していないのか、それとも、刺激の組み合わせを覚えていられなかったのか、区別がつきません。そのため、この可能性についても検討を行いました。

 

先ほどと同様の映像を馴化刺激として用います。そして、随伴性の順序を入れ替えずに、組み合わせだけを入れ替えます。

 

刺激映像の流れ

「ジグサグ→青い怪獣」を学習していたチンパンジーに、「ジグサグ→緑の怪獣」を呈示するというわけです。この条件では、チンパンジーの注視時間は一致条件と不一致条件によって異なりました。

 

ヒトは、対称バイアスを持っているので、言語を獲得できます。例えば、「「リンゴ」という視覚情報→「リンゴ」という音」を学習すると、「「リンゴ」という音→「リンゴ」という視覚情報」を推論します。しかし、対称バイアスは論理的に考えると本来誤りです。この論理的な誤りを犯さないことが適応的である場面もあるはずです。

ヒトとチンパンジーでは異なった淘汰圧が働いたのかもしれません。

 

※この論文はOAです。映像は、論文のサイトで見ることができます。